横浜地方裁判所 平成2年(わ)327号 判決 1992年3月12日
本店所在地
横浜市鶴見区鶴見中央三丁目五番二二号
有限会社伸成
右代表取締役
軽部豊
本籍
川崎市幸区神明町二丁目三七番地
住居
横浜市鶴見区諏訪坂八番一〇号
会社役員
田中秀雄
昭和一一年一〇月一七日生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官郡司哲吾出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人有限会社伸成を判示第一の罪につき罰金二五〇〇万円、判示第二、第三の罪につき罰金四〇〇〇万円に、被告人田中秀雄を判示第一の罪につき懲役七月、判示第二、第三の罪につき懲役七月に各処する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人有限会社伸成(平成元年四月二六日変更前の商号「田中興業有限会社」、以下「被告会社」という)は、遊戯場の経営及び遊戯場機械の賃貸などを目的とする会社、被告人田中秀雄は、被告会社の実質的経営者で、その業務全般を統括するものであるが、被告人田中は、被告会社の法人税を免れようと企て、被告会社の業務に関し、売上げの一部を除外し、無記名債券を購入するなどの方法で所得を秘匿したうえ、
第一 昭和六〇年七月一日から同六一年六月三〇日までの事業年度において、被告会社の実際所得金額は一億九六二八万八〇三〇円で、これに対する法人税額は八二四四万六六〇〇円であったにもかかわらず、同年九月一日、横浜市鶴見区鶴見中央四丁目三八番三二号所在の所轄鶴見税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額は一八三二万六四八五円であり、これに対する法人税額は五三八万九一〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度の正規の法人税額との差額七七〇五万七五〇〇円の法人税を免れ、
第二 昭和六一年七月一日から同六二年六月三〇日までの事業年度において、被告会社の実際所得金額は三億八一七一万〇一三五円でこれに対する法人税額は一億五四九〇万三九〇〇円であったにもかかわらず、同年八月三一日、前記鶴見税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額は二億二一五四万三五二三円であり、これに対する法人税額は八七六三万三八〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度の正規の法人税額との差額六七二七万〇一〇〇円の法人税を免れ、
第三 昭和六二年七月一日から同六三年六月三〇日までの事業年度において、被告会社の実際所得金額は四億一八四九万六二八五円でこれに対する法人税額は一億六七九八万〇三〇〇円であっにもかかわらず、同年八月三一日、前記鶴見税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額は三億〇三六五万七六七一円であり、これに対する法人税額は一億一九七四万七九〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度の正規の法人税額との差額四八二三万二四〇〇円の法人税を免れたものである。
(証拠の標目)
判示全部の事実について
一 被告会社代表者軽部豊の当公判廷における供述
一 被告人田中秀雄の当公判廷における供述
一 被告人田中秀雄の検察官に対する供述調書四通
一 検察官検事久保田明広並びに被告人両名の弁護人島田種次、同鈴木善和及び被告人田中秀雄作成の合意書面
一 須田勝(二通)、小倉満、藤澤伸行、川上武章及び大里慶三の検察官に対する各供述調書
一 大蔵事務官作成の写真撮影報告書、預金調査書(二枚目、四枚目を各除く)、短期借入金調査書及び未納事業税調査書
一 鶴見警察署長(四通)及び藤沢警察署長作成の各捜査関係事項照会回答書
一 横浜地方法務局登記官作成の登記簿謄本、閉鎖目的欄用紙謄本及び閉鎖役員欄用紙謄本(三通)
判事第一の事実について
一 大蔵事務官作成の平成二年八月二一日付脱税額計算書(昭和六〇年七月一日から昭和六一年六月三〇日までの事業年度に関するもの)及び査察官報告書
一 押収してある法人税確定申告書一袋(平成二年押第三二五号符号3)
判示第二の事実について
一 大蔵事務官作成の平成二年八月二一日付脱税額計算書(昭和六一年七月一日から昭和六二年六月三〇日までの事業年度に関するもの)
一 押収してある法人税確定申告書一袋(平成二年押第三二五号符号2)
判示第三の事実について
一 大蔵事務官作成の平成二年八月二一日付脱税額計算書(昭和六二年七月一日から昭和六三年六月三〇日までの事業年度に関するもの)
一 押収してある法人税確定申告書一袋(平成二年押第三二五号符号1)
(確定裁判)
被告人田中は、昭和六二年二月二五日、横浜地方裁判所で法人税法違反の罪により、懲役一年(執行猶予三年。平成元年一一月七日、懲役一〇月、執行猶予二年八月に減刑及び短縮。)に処せられ、右各裁判は同年三月一二日確定したものであって、右事実は、検察事務官作成の前科調書からこれを認める。
(法令の適用)
被告会社の判示第一ないし第三の各所為はいずれも法人税法一五九条一項(七四条一項二号)、一六四条一項に各該当するところ、情状により同法一五九条二項を適用し、判示第二、第三の各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪の罰金を合算し、その(所定)罰金額の範囲内で、被告会社を判示第一の罪につき罰金二五〇〇万円、判示第二、第三の罪につき罰金四〇〇〇万円に処し、被告人田中の判示第一ないし第三の各為はいずれも法人税法一五九条一項(七四条一項二号)に各該当するところ、所定刑中懲役刑を選択し、刑法四五条前段及び後段によると、判示第一の罪と前記確定裁判のあった罪とは併合罪であり、判示第二、第三の各罪はこれとは別個の併合罪の関係に立つ。よって、同法五〇条によりまだ裁判を経ない判示第一の罪につき更に処断することとし、判示第二、第三の各罪につき、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、その刑期の範囲内で被告人田中を判示第一の罪につき懲役七月、判示第二、第三の罪につき懲役七月に処することとする。
(量刑の理由)
被告人らは、昭和六二年二月二五日、本件同種の犯行により、被告会社は罰金二〇〇〇万円、被告人田中は懲役一年(執行猶予三年。平成元年一一月七日、懲役一〇月、執行猶予二年八月に減刑及び短縮。)に各処せられたにもかかわらず、被告人田中は反省することなく、かえって、支払った右罰金及び重加算税を取り戻そうと考え、右判決言い渡しからわずか三か月を経たころから再び売上げを秘匿することを企てたものであって、動機に酌量の余地はないこと、その犯行を見るに、かねて、査察官からコンピューターの打ち出す売上げ内容を記載したいわゆる「ジャーナルペーパー」を保存するよう注意され、顧問税理士からも同様の指導を数回受けながら、これに従わず、当時の被告会社代表者須田に命じて確認後はこれを直ちに廃棄させ、一方被告会社の経営の実体を把握することよりも売上げ秘匿を優先させ、その目安としての数字さえ把握できればよいとの考えから、顧問税理士に対しても売上げ除外後の帳簿に基づき会計処理をさせ、自らもそれまで手帳にメモしていた売上げ除外状況や「割数」等についても、もっぱら名刺裏に記載して確定後はこれをも廃棄することとし、秘匿しやすい無記名債券に目を付け、除外した売上げでこれを購入し続け、右購入に際しても、カウンターでは人目につきやすいところから、応接室で応対してくれる金融機関に集中させ、査察の際も、当局において無記名債券の全部が把握されていることを確認するまでは身に覚えがないことと言い続けたものであって、その犯行態様は巧妙悪質であり、これによるほ税額も前回の三倍近くにのぼることなどの諸点に鑑みると、被告人田中の反規範的傾向には根強いものがあるといわなければならない。
なお、同被告人は、二つの財団法人宛各一億円合計二億円の金員を寄付していることが認められるものの、右各寄付は、被告会社と取り引き関係のある金融機関からの相当な便宜供与のもとで取得した株式を売却することで同被告人が巨額の利益を得ていたところ、その一部相当額につき、右金融機関の好意的な取り扱いのもと、これから金員を借り入れてなされ、しかも、その返済についても右金融機関から前同様の取り扱いを受けているものであって、右寄付が応分の評価を受けるべきことは当然としても、これを過大に評価することはできない。
このような諸事情に鑑みると、同被告人の刑事責任は重く、現在では同被告人もその所為の愚かさと重大さに思いを致し、これを深く反省悔悟していると認められること、本件後、前示のほ脱分については重加算税を含め諸税を納付し、「ジャーナルペーパー」も保存するよう改めていること、現在の被告会社代表者に対しては、社会的相当性を逸脱するような行為への協力の指示等をしない旨の誓約書を差し入れていること、贖罪のため前記のとおり高額の寄付をしたこと、同被告人は、同時に従業員百数十名を数える菓子食品総合元卸を業とする株式会社等数社の代表者でもあり、その取引先関係者において、今後は強力に指導監督し、同被告人の更生に協力する旨約していること、同被告人の家族関係及びこれまでの経歴等、同被告人のために斟酌すべき諸事情を考慮しても、なお、実刑は免れがたい。しかし、その刑の量定に当たっては、前示の諸情状を勘案し、被告人らに対しては、主文掲記の刑が相当であると判断した。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 富永良朗)